熱設計の基本戦略

エネルギーと熱に関するよくある勘違い

Note

エネルギーは消費したら無くなる?

熱力学第一法則はエネルギー保存則 である.つまり, この宇宙のエネルギー総量は保存している ことを意味する. エネルギーは消費することで,消滅する,訳ではない .エネルギーは価値ある / 使いやすい形態(電気,運動,位置,極端に高い熱や低い熱 etc. )から,価値の低い,使いにくい,実質使えない形態(熱エネルギー etc. )へと 変換されているだけ である.エネルギー消費とは,エネルギー量が減少している訳ではなく, エントロピーを増大させているだけ なのである (実際,宇宙全体として, 今後 "利用価値があるエネルギー"の総量 は減っている訳ではあるが).

熱の発生源は何か.

機器内部で消費されたエネルギーは真の意味で無くなってはいない.だからエネルギーの変換先として熱エネルギーが生まれるので,発熱する.つまり,エネルギーを利用(変換)する機器はほとんど熱源を伴うことになる.それも,機器が小型であるほど,変換によって生じる熱エネルギー密度(すなわち温度)は高くなるので,熱対策は大概の事例で必要となる ( e.g. 高集積半導体デバイスとその応用である種々の演算端末 ).

そもそも熱設計とは何をすることか

熱力学第一法則の帰結から勿論, 熱エネルギーを消滅させることはできない .なので,熱設計とは 熱エネルギーの発生を予測し,流入・流出を制御する手段を整えること であると表現できる. 繰り返しになるが,熱対策の為に 冷却機構 を作るということは,熱を消滅させることではない. 熱対策としての冷却機構とは,熱の消滅機構ではなく,熱の伝達機構のことである

発生する熱の予測について

流出入するエネルギーフラックス収支が発生する熱の総量となる.これは具体的には,電気機器であれば消費電力,流出入する回転や並進の運動エネルギーの収支,日光や周辺機器による熱伝達の収支などが相当する.

熱伝達の3つの手段

熱の移動,すなわち,熱伝達には以下の3つの要因がある.

  • 伝導 ( conduction )

  • 放射・吸収 ( radiation / absorbtion )

  • 対流 ( convection )

(熱伝達)=(熱伝導) + (熱放射) - (熱吸収) + ( 熱対流 ) となる.以下に各項目を簡単に説明する.

熱伝導

熱伝導とは,並進的な移動を伴わずに温度勾配に比例して熱が伝達する現象である.粒子の重心が物質内部で空間的に固定されているような固体中でも生じる.構成粒子の熱振動(音響格子=フォノン)を介在したエネルギー拡散機構の一形態として捉えられる.結局は,フォノン同士の Coulomb 力 ( 電磁気力 )が担うエネルギー輸送に帰着. Fourier の法則: q=-\kappa \nabla T を支配法則とする.

熱放射・熱吸収

熱放射,及び,その逆過程である熱吸収は,電磁波(媒介は光子=フォトンが担う)をエネルギーフラックスとして伝搬する物質間の熱エネルギー輸送機構である.熱伝導も熱放射も結局は光子が伝搬するが,相互作用する粒子間の距離が全く異なる(熱伝導は極めて近接的な力として,熱放射は極めて遠距離的な力として働く).近似的な支配法則として, Stefan-Boltzmann 則 ( I=\sigma T^4 ) が用いられる.より厳密には,Planck 放射が支配法則.

熱対流

熱対流は,物質表面に気相・液相にある流体が接触するとき,物質と流体間で熱エネルギーの授受が生じ,流体の空間的移動によって物質から熱が奪われる現象である.接触状態における熱移動は, Coulomb 力といった近接的な効果が媒介する.支配法則としては, Navier-Stokes 方程式における熱対流の項があげられる v\cdot \nabla e