加速器の基礎¶
加速とエネルギー¶
加速の原理¶
加速器は荷電粒子を加速する装置である. 荷電粒子は,主に電子・イオン(H/He/C)がよく用いられるが,原理的に電荷を有する粒子であればなんでも加速できる. 加速は電場によってなされる. Newton-Lerentz 方程式,
が,荷電粒子の支配方程式であり,このエネルギー積分を考えると
より,磁場が仕事しない( = 本質的に粒子を加速することができない )のは明らかである.
相対性理論¶
高エネルギーの領域に粒子を到達させようとすると,相対論効果が働く. 定性的には,高エネルギーになり粒子の速度が光速度に近づくと,粒子は見かけの質量が大きくなり,加速されにくくなる.速度vで運動する粒子の質量mは,Lorentz変換の式より,
と書ける.運動する粒子の全エネルギーEは
である.つまり,粒子が光速度に近づくと,だんだんと粒子は重くなってしまい,速度が上昇しにくくなる. そのため,エネルギーを得るのも光速度に近づくほど難しくなっていく.
運動エネルギーTは、
このときのβは、
である.
どの程度の速度になれば相対論効果が効くかを考える.
粒子の静止質量に相当するエネルギーを得れば,相対論効果による影響を から考えて,
上式より,静止エネルギー程度の運動エネルギーを有すれば,質量が静止質量と同程度変化することになる. 静止エネルギーと運動エネルギーが同程度となる速度は,
から, である.
各粒子における静止エネルギーは,次である.
電子: 511 [keV]
陽子: 938 [MeV]
加速器の基本構成要素¶
加速器は粒子を生成・加速・収束・維持・ビーム取出しを担う装置の総称である.次の構成要素からなる.
加速部¶
荷電粒子は電場によってのみ加速される.電場の時間変化によって,
静電加速 ( 直流 )
高周波加速 ( 交流 )
へ大別される.静電加速は,電極間に繋いだ高電圧により発生させる電場による加速で,大電流化できる一方,絶縁耐力によって到達エネルギーが制限されるため,高エネルギー化は難しい.代表的な加速器として, Van de Graaff 加速器や Cockcroft-Walton 型加速器等がある.高周波加速は,時間変化する交流電場内を繰り返し粒子が通過し,一定方向に連続的にエネルギーを得る.そのため,絶縁耐力による制限は無く,10 MeV 以上の高エネルギー領域に到達できる.代表的な加速器にLINAC等がある.
収束部¶
荷電粒子を電場によって加速・取出しする際に,粒子が安定した電位勾配を通過できるように,もしくは対象に適切に照射するために,粒子の位置・運動量を制御する必要がある. Newton-Lorentz 方程式から,粒子の運動制御には,(1) 電場 を使う方法,(2) 磁場を使う方法,の2種類がある.高エネルギーでは粒子の速度が大きいと Lorentz 力も大きくなるため,容易に運動量を変化できる磁場が用いられることが多く,電場は低速度で電場が用いられることが多い.磁場は鉄とコイルによって構成される電磁石によって制御され,軌道を曲げる偏向電磁石,ビーム収束のための四極電磁石,色収差補正用の六極電磁石がある.電場は電極と電源によって構成する静電レンズであり,高周波四重極レンズ等がある.
粒子源¶
粒子源は,取り扱う粒子種によって
イオン源
電子銃
電界冷陰極
光冷陰極
熱陰極
に大別される. イオン源は,ガス放電等によって電子・イオンを分離し,電場によってイオンのみを引き出す. 電子銃は,金属表面から電子を取り出す陰極放出を利用し,引出しの際に加えるエネルギーによって電界冷陰極,光冷陰極,熱陰極等に分けられる.
真空装置¶
ビームの走行経路は真空に保つ必要がある. 荷電粒子が異なる粒子と衝突すると,散乱・再結合等でビームが失われるため,ビーム損失低減には高真空が必要である. 特に,蓄積リングのような,周回数が多い加速器系の場合, の超高真空が必要となる.真空ダクト表面の金属材料が,放射光によって光脱離するため,材料の選定等が重要である.
制御系¶
加速電場のRFや粒子源,取出しキッカ等の時間チャートを連携させ,粒子の生成・加速・蓄積・取出し・照射を完遂するためには,これら機器間の高度な通信・計測・制御が必要となる.高エネルギー粒子同士の衝突実験や医療用加速器など,細く絞ったビームを精密に対象に照射する.