薔薇戦争

  • 薔薇戦争 - イングランド絶対王政を生んだ骨肉の内乱 -

  • 著者:陶山昇平 (総務省)

本の構成

  • 薔薇たちの諍い

  • 神罰としての薔薇戦争?

  • イングランド王建の「十五世紀の危機」

  • ランカスター朝の成立 -血塗られた玉座-

  • ヘンリー五世と百年戦争 -栄光の幻影-

  • 内乱へ突き進むイングランド -ヘンリー六世の治世-

  • 第一次内乱 -ランカスター朝の終焉-

  • エドワード四世の治世(前半) -癒えぬ傷跡-

  • 第二次内乱 -ヨーク派の分裂-

  • エドワード四世の治世(後半) -栄光と平安-

  • 第三次内乱 -白薔薇の復讐遂げし赤薔薇-

  • 薔薇戦争とはなんだったのか

  • 終わりに

薔薇戦争の前史 ( ランカスター朝の成立と薔薇戦争開始まで )

薔薇戦争とは

  • 英仏百年戦争後のイギリス、 プランタジネット朝 の王位を争った30年近くに及ぶ内乱.

  • プランタジネット朝のエドワード三世の子どもである、 ランカスター公ジョン・オブ・ゴーント と、 ヨーク公エドムンド の子孫が王位をかけて、英国内の貴族を二分して争った.薔薇戦争の名前は、ランカスター派の徽章である 赤薔薇 と、ヨーク派の徽章である 白薔薇 に起因する.

ランカスター朝の成立

  • ランカスター朝は、エドワード三世の直系(孫、エドワード黒太子の子)である リチャード二世 から、ランカスター公ジョン・オブ・ゴーントの息子である ヘンリー四世 (ボリングブロク)が王位を簒奪したことに始まる.

  • ヘンリー四世は、当初、即位した経緯から「王者に安眠なし」という不安定な王権基盤での生活を送らざるを得なかった.次代の ヘンリー五世 は、英仏百年戦争における「アジャンクールの戦い」などで勝利し、イングランド・フランス二重王国を成立させる 「トゥールの和約」 を締結し、繁栄を築く.しかし、ヘンリー五世は戴冠前に急死し、王権基盤の安定化は果たせなかった.

ヘンリー六世が抱える争乱の火種

  • 後継の幼君、「聖なる愚者」とあだ名される ヘンリー六世 は、 内部の権力抗争 (ボーフォート家 ( 枢機卿・サフォーク公 etc. ) v.s. グロスター公 = 棍棒議会 ( Parliament of bats ) )・ 外交事情の悪化 ( オルレアン包囲戦、アングロ・ブルギニョン同盟の崩壊 )に対処できず、内乱の火種を抱える.

  • 対外政策の失策で追放となったサフォーク公が流刑中の船上で、不穏市民によって暗殺され、その死体が英国南部(ケント州 etc.)で発見される.王家が報復として近隣住民が虐殺するという流言が元となって 「ジャック・ケイドの乱」 が勃発.王家の財政再建や公正な政治を求めて、実力者 ヨーク公リチャード の「護国卿」就任が要求されるが、乱は鎮圧.

ヨーク公の政界登場と内戦準備

  • 民衆の支持を得て、ヨーク公が政界に登場.しかし、国王派・他貴族達の支持を得られず.国王派の サマセット公 と対立激化. この時代の争乱は、 ヨーク公 v.s. サマセット公 の権力争奪戦 の意味合いが強い. 事実上の軟禁状態となってしまう ダートフォード・ヒースの屈辱 を経るも、ヨーク公は民衆の支持を拡大する. ヘンリー六世が「抑鬱性昏迷」を発病 すると、ヨーク公が護国卿に就任. 第一次セントオールバンズの戦い で政敵サマセット公を排除すると、 第一次・第二次護国卿政権 を樹立し、実権を掌握した.

  • ヘンリー六世は、内部の権力抗争の禍根を断つために、 「愛の日の和解劇」 を挙行.しかし、文字通り手を取り合って歩いた和解劇は、単なるパフォーマンスでしかなく、ランカスター家(マーガレット王妃派)とヨーク家は互いに衝突に向けた準備を反対側の手で進めていた.

薔薇戦争の本史 ( ヨーク朝の成立まで=第一次内乱 )

ブロア・ヒースの戦い

  • 対立:オードリー卿 (ランカスター派) v.s. ネヴィル家ソールズベリー伯 ( ウォリック伯の父 )

  • 経過:オードリー卿の数的優位であったが、湿地帯への誘導と弓兵の活躍により、オードリー卿戦死

  • 勝者: ヨーク派

  • 結果:カレー守備隊率いるウォリック伯とソールズベリー伯の合流

ラドフォード橋の戦い

  • 対立:国王軍諸将(ランカスター派) v.s. ヨーク公+ネヴィル家

  • 経過:数的不利に加えて、カレー守備隊最精鋭のアンドリュー・トラロップが国王派へ離反

  • 勝者: ランカスター派

  • 結果:ヨーク公はアイルランドへ、ウォリック伯+マーチ伯(エドワード四世)はカレーへ逃亡.

悪魔の議会

  • マーガレット・ド・アンジューらが、ヨーク派諸侯の土地没収を議会で決定.

  • 中立派が土地没収に冷ややか.ランカスター派へ反感.

ノーサンプトンの戦い

  • 対立:国王軍諸将(ランカスター派) v.s. ヨーク公+ネヴィル家

  • 経過:ランカスター派 5000に対して、ヨーク派 10000、グレイ卿が離反し、バッキンガム公ら戦死.

  • 勝者: ヨーク派

  • 結果:国王ヘンリー六世捕縛、息子エドワード王子と王妃マーガレット・ド・アンジューは北ウェールズへ逃避.ヨーク公、玉座に手をかけるも、諸侯ドン引き.腹心ウォリック伯にも諌められる始末.

ウェイクフィールドの戦い

  • 対立:ランカスター派(サマセット伯・ノーサンバランド伯+スコットランド援軍) v.s. ヨーク公+ネヴィル家(ソールズベリー伯)

  • 経過:ランカスター派の数的有利を認識できずに野戦.

  • 勝者: ランカスター派

  • 結果:ヨーク公、ソールズベリー伯の戦死.ヨーク派は2人の子どもら(マーチ伯(エドワード四世)、ウォリック伯)に委ねられる.

モーティマーズ・クロスの戦い

  • 対立:ランカスター派(別働隊:テューダー家) v.s. マーチ伯+ネヴィル家(ウォリック伯)

  • 経過:マーチ伯が、幻日というレアな自然現象を吉兆として舞台を鼓舞し、勝利.

  • 勝者: ヨーク派

  • 結果:ジャスパー・テューダー敗走、オーウェン・テューダーは捕縛・即処刑.マーチ伯はロンドン入り.

第二次セントオールバンズの戦い

  • 対立:ランカスター派( アンドリュー・トラロップ + サマセット公他 ) v.s. ウォリック伯

  • 経過:激しい市街白兵戦の結果、セントオールバンズ市街をランカスター派が奪取.

  • 勝者: ランカスター派

  • 結果:しかし、ランカスター派は略奪等が災いし、ロンドン入りできず.マーチ伯がエドワード四世として即位.もう後には引けない事態に.

タウトンの戦い

  • 対立:ランカスター派オールスターズ(ヘンリー六世は除く) v.s. ヨーク派オールスターズ

  • 経過:セントオールバンズでの敗戦から、一週間後、フォーコンバーグ卿(ウォリック伯の叔父)が北部に向けて進発.ヨーク派25000とランカスター派30000がタウトンの平原に集結、序盤はトラロップの騎兵が活躍し、有利に進めたが、ヨーク派のノーフォーク公が到着すると体勢が決定.多くのランカスター派将兵が退却時に川を渡河できず、溺死.

  • 勝者: ヨーク派

  • 結果:ヘンリー六世一家は、スコットランドへ落ち延びる.サマセット公・エクセター公らも亡命生活.

薔薇戦争の本史 ( ヨーク朝成立後の内乱=第二次内乱 )

エッジコートの戦い

  • 対立:ウォリック伯 ( ヨーク家クラレンス公 ) v.s. ウッドヴィル家、デヴォン伯、ペンブルック伯 etc. ( ヨーク家 国王エドワード四世 )

  • 経過:戦巧者ウォリック伯に対して、恐れをなしたヨーク派諸侯はまともに戦うことなく敗走

  • 勝者: ウォリック伯・クラレンス公

  • 結果:諸将は逮捕、処刑、ノッティンガムにいた国王もペンブルック伯に合流しようとしてジョージ・ネヴィル大司教に逮捕される.しかし、ウォリック伯が親国王派貴族の支持を取り付けられず、王位簒奪に失敗し、エドワード四世を解放.

ルーズコート・フィールドの戦い

  • 対立:ウェルズ家 (ウォリック伯の差金) v.s. ヨーク派国王軍

  • 経過:ウォリック伯が糸を引いたウェルズ家が反乱.国王軍の火力の前に戦意焼失.

  • 勝者: ヨーク派

  • 居場所をなくしたウォリックがカレーへ渡航.ルイ十一世の権謀によって、ランカスター派マーガレット・ド・アンジューと和解.フランスと同盟し、対立はヨーク派・ブルゴーニュ v.s. ランカスター派・フランスへ

エドワード四世包囲網

  • 対立:ウォリック伯+モンタギュー侯爵(ジョン・ネヴィル) v.s. エドワード四世

  • 経過:南からウォリック、北からモンタギュー侯爵に挟み撃ちされ、エドワード四世は戦うことなく逃走.

  • 勝者: ランカスター派(ネヴィル家)

  • エドワード四世はブルゴーニュ公国へ逃亡、ヘンリー六世が復位.しかし、ブルゴーニュ公国の支持を得たエドワードはイングランド再上陸.マーガレット王妃への接遇に忙しい諸侯を糾弾できず、ロンドン・ヘンリー六世はエドワード四世が奪取.

バーネットの戦い

  • 対立:ランカスター派 (ウォリック伯 + ジョン・ネヴィル + ジャスパー・テューダー他) v.s. ヨーク派(エドワード四世+グロスター公(後のリチャード三世)+ヘイスティングス卿他)

  • 経過:濃霧の中、ランカスター派の同士討ちが生じてしまう.

  • 勝者: ヨーク派

  • 結果:ジョン・ネヴィルは討死.ウォリック伯は敗走中に討死.

テュークスベリーの戦い

  • 対立:ランカスター派中枢(ヘンリー六世、エドワード王子、マーガレット・ド・アンジュー、サマセット公、他) v.s. ヨーク派

  • 経過:通行が難しい悪路を中心に展開するも、戦巧者のエドワード四世、グロスター公、ヘイスティングス卿の前にランカスター側の作戦失敗.

  • 勝者: ヨーク派

  • 結果:エドワード王子が戦死、ヘンリー六世捕縛後、エドワード王子死亡の報を受けて自然死(と伝えられるが、おそらく暗殺)、マーガレット捕縛、サマセット公ら捕縛後処刑.ランカスター派の事実上の滅亡.

薔薇戦争の本史 ( テューダー朝の成立まで=第三次内乱 )

バッキンガム公の反乱

  • 対立:バッキンガム公(ランカスター派後継のヘンリー・テューダー支援者) v.s. ヨーク派(リチャード三世(元グロスター公))

  • 経過:バッキンガム公の戦地到着が遅れ、ヘンリー・テューダーがドーバー海峡を渡れず難破し、川の決壊をくらって戦意焼失、孤立無援.

  • 勝者: ヨーク派

  • 結果:バッキンガム公は部下の裏切りで身柄確保、処刑.ヘンリー・テューダーは戦っていないにも関わらず、ランカスター派残党に旗頭として広く認知されることになる.

ボズワースの戦い

  • 対立:ヨーク派 (リチャード三世(元グロスター公)) v.s. ヘンリー・テューダー(ランカスター旧臣派)

  • 経過:上陸したヘンリーテューダーを迎え撃つために、リチャード三世はボズワースの丘に軍を進め、野戦に.リチャード三世軍は、ヘンリーテューダー軍と拮抗するが、沼地に阻まれてうまく全軍展開できず、戦況不利に.テューダーに向けて、近衛突撃するが、馬を失い、スタンレー卿の裏切りにもあったため、孤軍奮闘の末に討死.

  • 勝者: ヘンリー・テューダー

  • ヘンリー・テューダーがヘンリー七世として即位.テューダー朝の成立.

ストークの戦い

  • 対立:旧ヨーク派残党 v.s. テューダー王国軍

  • 経過:クラレンス公の王子を僭称するも、本人はロンドンに幽閉されていた.

  • 勝者: ヘンリー・テューダー

  • 結果:ヨーク派残党の滅亡、テューダー朝の基盤強化.

主張

  • 薔薇戦争は、徹底的な骨肉の内部抗争の代名詞

  • イギリスを赤薔薇派(ランカスター派)と白薔薇派(ヨーク派)の真っ二つにして争ったために、貴族・王族に多数の死者を産み出し、最終勝利者の王(テューダー朝)への中央集権化がすすむ.