超伝導に特異な現象 4つ

超伝導は,一般に電気抵抗がゼロとなる現象として知られているが,これに付随して別の特性も発現する. 以下に,超伝導相転移によって発現する現象を示している.

  • 電気抵抗の消失

  • 完全反磁性 ( Meissner 効果 )

  • 磁束の量子化

  • 超伝導トンネル効果 ( Josephson 効果 )

電気抵抗の消失

超伝導体では,電気抵抗が非常に小さくなるのではなく,厳密に \rho=0 となる. これは,超伝導材料で作った閉回路中の電流が減衰しない「永久電流の実験」によって確かめられている. 付随して,電場 E=0 となり,起電力が存在しないが,ゲージ場によって駆動される Cooper 対の流れが電流となる.

完全反磁性 ( Meissner 効果 )

超伝導体に外部から磁場を印加しようとした場合, \partial_t B = - \nabla \times E の誘導電場によって遮蔽電流が生じ,抵抗率がゼロであるために永久に磁場は遮蔽され続ける ( 磁場誘導方程式の磁場拡散項がゼロとなるため,永久に磁場が浸みこめない ).一方で,常伝導下で磁場を印加すれば磁場は内部に浸みこむことができるが,この状態で冷却して超伝導相転移させた場合,内部の磁場は超伝導体外部へと排除されて,B=0となる.これを 完全反磁性 ( Meissner 効果 ) という.完全反磁性というのは,

B = \mu_0 ( H + M ) = \mu_0 ( H + \chi H ) = \mu_0 ( 1 + \chi ) H = 0

より,超伝導体の磁化率が \chi=-1 となることに由来する.

磁束の量子化

トーラスのような中空の超伝導体に軸方向に磁場をかけたまま超伝導転移させることを考える. 超伝導体内部では完全反磁性によって磁場が排除されるが,中空部分には磁束 \Phi が貫いたままとなり,この磁束 \Phi はトーラスが超伝導状態であり続ける限り,磁場が浸みこむことができないため,永久にトラップされ続ける ( 磁束のピン止め効果 ).これは超伝導体のマクロな形状にのみ関するわけではなく,超伝導体の微小な格子欠陥に由来するような微小な超伝導状態の破れにも適用される.ピン止めされる磁束量について詳しく測定すると,ある小さい値 \Phi_0 = h / 2e ( h: Planck 定数, e: 素電荷 )毎の離散的な値で変化する ( 磁束の量子化 ).ここでの, h/2e は, Cooper 対を形成する2個の電子がトーラスを一周した時に周期性をもつ定在波条件からの量子力学的要請である.

超伝導トンネル効果 ( Josephson 効果 )

2つの超伝導体 S1, S2の間に,十分に薄い絶縁体Iを挟んだ,SIS接合を考える.この際,以下に示すような量子力学的効果が巨視的に発現した現象が見られる.

  • 直流 Josephson 効果 SIS接合両端に電源をつながずとも,超伝導体間に直流の超伝導電流( Josephson 電流 )が流れる.

  • 交流 Josephson 効果 SIS接合両端に直流電源をつないだ時,電位差に応じた周波数の交流の超伝導電流が流れる.

超伝導体は, Bose-Einstein 凝縮によって全体として1つの巨大な電子対として振舞っているが,二つの超伝導体間ではこれらの位相は一致していない.そこで,これら2つの巨大電子対の塊を近づければ,位相を揃えようとする電流が流れることになる.絶縁体I層の間は, 量子力学的トンネル効果によって導通する.また勿論,直流 Josephson 効果を V=0 のときの交流 Josephson 効果と見なせば( つまり,周波数ゼロで時間変化しない = 直流 ),両者は本質的に同じ現象である.

Josephson 効果には以下のような重要性がある.

  • 絶縁体層の厚みを増減することにより Cooper 対がもつ超伝導ギャップ 2\Delta が測定できる.

  • 両端の電圧によって周波数が変調できる自然の 電圧-周波数変換器 ( Frequency-Voltage Convertor:FVC )である.

  • 逆に, Josephson 素子にマイクロ波を入射することによって,電流-電圧 (I-V) 特性が階段状に変化する ( Shapiro step ).これは, 電圧標準 として用いられている.

  • 超伝導リングの一部に Josephson 素子を埋め込んだ, SQUID と呼ばれる微小磁気測定デバイスが開発されている.

  • 微小な超伝導体 (超伝導ドット) を形成すれば,静電エネルギーによって Cooper 対の出入りが制限できるため,エネルギー準位の離散化( 超伝導量子ビット )を操作することを原理とした新しい計算機が提唱されている.